気分や付き合いだけで価格を決めていませんか?流通と仕切りのお話
メーカー希望小売価格や上代、定価に至っては「あってないようなものだ」とよく耳にします。物を売って商いをする際にこの価格付けこそが流通の基礎であり、これほどわかりやすい価格設定もありません。
今回の記事は、気分でお見積もりをしている人、相場だからと適当に価格を決めている人へ、ちょっとだけ読んでほしい流通機構のお話です。
定価、希望小売価格、上代について
どれも商品を買うときに耳にする言葉ですね。定価=高い!希望小売価格=ぼったくり!上代なにそれ?っという感じでしょうか。
詳しくはこのような形です。
定価とは、メーカー側が販売店に この値段で販売しなさい と定めた価格です。認められた商品以外に定価で販売した場合、独占禁止法に抵触してしまいます。その為、最近では定価という表現から希望小売価格という表現に変わってきています。
参考:定価について -wikipedia
参考:定価制度とは マーケティング用語集 新規開拓営業支援サイト 新規開拓.com
自分はお見積りを行う際、上代と呼んでいるのですが、あまり耳にしない人も多いかと思いますので、この記事では希望小売価格という表現で説明しております。
あなたのお客様は常に末端ユーザーですか?
最近、まとめサイトや個人のブロガーさんが「Web制作のお見積もり」という名目でサイト上に販売価格を掲載しているのを目にします。Web制作という商品において、どの程度のボリューム(サービス含)で算出された価格なのかは存じませんが、全て希望価格(上代)もしくは、ユーザー価格で設定されたものなのか非常に興味があります。
どういう事かと言うと、自分は実際に手に取ることができる製品(印刷物など)はもちろん、コンサルや保守などのサービスの一環であろうと、希望価格(上代)の表示を記した上で見積もり書を作成しています。これがどのような意味をもっているのか簡単に説明いたします。
例えば、あなたの会社はWeb制作会社としましょう。制作1Pに対する費用について下記のように価格設定を行ったとします。
サイト制作1Pに対する原価は2,000円です。
希望価格は原価の5倍として、10,000円と設定。
ユーザーへの販売価格は7,000にします。(粗利などは後ほど)
希望価格の10,000円から、ユーザー価格7,000円の割引率は下記図のとおり
値引き率は30%程となります。
原価2,000円を希望価格で販売したときの利益率は80%、粗利は8,000円、ユーザー価格で販売したときの利益率は71%となります。この程度の利益率があれば会社としてはやっていけそうですね。('A')
ユーザーからあなたの会社にお見積もり依頼があった場合、ユーザー販売価格の7,000円、でお見積書を作成します。(30%の値引きを表示したり、まとめて出精値引きする方法もあります。二重価格表示ではないので気を付けないといけませんが)
はい、ここで疑問!
なぜ、ユーザー販売価格がメーカー希望価格ではないのでしょうか。
希望価格=ユーザー価格で販売しているメーカーや代理店もあります。自分の場合は上記のように希望価格(上代)を表示した上でユーザー価格を算出しています。
なぜかというと、商売において価格を下げることは簡単でも、価格をあげることって難しいです。(原価が上がったからすぐに販売価格をあげることは難しいということですね。)値上がりするだけで、販売店への説明責任はもちろん、稟議書を書かされるなど苦労します。希望価格=ユーザー販売価格では、値上がりがダイレクトに影響してしまうため、希望小売価格というクッションをいれる事である程度調整する事ができるようになります。特に代理店経由の取引では重要な部分かな。
さて、ここまで見積りする際にそれがユーザー価格なのか希望価格なのかで粗利が違うことが確認できたでしょうか。
代理店卸価格の設定
前項では、ユーザーへ直接販売する価格(直販価格)とメーカー希望小売価格について書かせていただきました。次は、この流通機構の中に代理店が入ってきた場合について説明いたします。
価格設定については、先ほどの例と同じく原価、ユーザー価格、希望価格は据え置きで、代理店卸価格というのを追加。
この例では、代理店の卸価格を6,300円と設定させていただきました。(伝票マージンという事で)この場合の利益率を確認してみましょう。
代理店に販売した際のメーカー側の粗利は68%、ユーザー価格7,000円から代理店価格6,300円の利益率は10%あります。
では、6,300円で卸された代理店はユーザーへいくらの価格で販売できるのでしょうか。
この通り、代理店は6,300円で仕入れている ので、それ以上の金額~希望価格の10,000円までの間で販売する事ができます。(特殊品として、希望価格以上の値段設定にする代理店もいますけど)通常の流通機構として希望価格を上限としてユーザーへ販売するのでしくみ的にはこんな感じです。
代理店はユーザーへ希望小売価格で販売できれば利益率は大きい ので、実に美味しい取引ですが、知らないユーザーからしたら高い買い物になりますよね。
「えっ?代理店から購入するより、メーカーから直接買った方が安いじゃん。馬鹿なの?」
っという人も多いと思うので簡単に説明しますと、
希望小売価格で販売する代理店には それでも売れる根拠があります。例えば、店舗販売における在庫を所持していたり、海外仕入(輸入)で入手するのが困難だったり、車の修理で部品パーツの取り寄せ(メーカー純正品)がサービスに含んだ価格だったり、僻地の場所だったり、ユーザーがブラックリスト入りでメーカーから直接購入できない場合に、代理店は希望価格相当で販売する場合があります。
このように、希望価格 > ユーザー価格 >代理店価格 の利益率を確認しながら価格設定を行うのは大事です。メーカーが流通を通さずに直販のみをやられている会社もあります。希望価格販売(定価販売)という殿様商売で、粗利も大きいのですが、やはり中小や競合他社が存在する業界だと問屋・販売店の存在は大きく、無言の営業マンであるその方たちに卸すという事も視野に価格設定を行いたいですね。
つまりここまでで言いたいことは、
商売を始めて、いつもユーザー直への販売だったが、会社が大きくなり、「御社の商品をうちの顧客に販売したい」という販売店が現れた際でも、事前に交通整理をしておけば下記ケースになっても大丈夫というわけです。
[追記]
ちなみに余談ですが、メーカーが希望価格販売(定価販売)を行わずになぜ、ディスカウントしたユーザー価格を設定して販売するのか疑問の方がいたのでお話しますと。メーカーが価格付けの上限である希望価格販売を行えば当然利益率は高いです。しかし、間に販売店が入った場合、販売店の価格付けは希望価格よりも安い金額設定にするはずですよね。そうした場合、購入者のほとんどが販売店から購入するようになります。こういう価格競争ができなくなるため、ユーザー価格を設定するという意味もあります。
お次は応用です
ケースその1 ユーザーと代理店から相見積もりされた場合
まったく同じ案件を、ユーザーから直接お見積もりされた場合と代理店を通してお見積りをされた場合です。
この流通機構ができあがっていれば、メーカー側はユーザーに7,000円でお見積もりし、代理店卸には6,300円のお見積もりをするのが通常です。
ユーザーに販売する価格はメーカー側も代理店側も共に7,000円が基準となりますので、ユーザーはメーカーから購入するのか代理店から購入するのかサービスの品質やサポート、支払い条件等(手形取引など)を加味して取引を決めます。
また、代理店としてもこの仕事を安くても取りたい!のであれば、利益率を従来の10%から8%にして、6900円で見積りすればメーカーの販売価格よりも安く提案する事ができます。(こちらの例ですが、以前から取引があるユーザーから相見積もりをされた場合(既に流通機構ができている場合)、代理店を通してくださいという理由でお見積りを行なわないケースもしくは、希望価格での案内を行う場合があります。)
さて、この流通機構を作成していない場合、最も多いトラブルが代理店価格にユーザー価格以上の設定をしてしまったりするケースですね。
依頼されるすべての案件が新規ではありません。
このように同じ案件が膨大に増えてきた場合、きちんとした流通機構と価格設定を行っていなければ高い安いの問題から「ユーザーへいくらで販売すればいいのか、仕切り価格と定価はいくらなのか」という問題となってしまいます。一枚の見積もりで代理店経由のユーザーに直接販売をしてしまうメーカーなど、いろいろなトラブルの原因にもなりますので交通整理だけはしっかりしたいところですね。
ケースその2 複数代理店からの見積もり
前項の、代理店を通したお見積もり依頼とは別にユーザーから直接見積り依頼をいただくことは結構珍しいケースです。相見積もりで最も多いのは複数の代理店を指定してくるケースですね。
もうね、毎度注文ごとに5社近くから相見積もりしてくる医療メーカー何とかしてくれと言いたいのだけど、やっぱり少しでも安く買いたいのだろうね。
代理店卸価格は決まっているのでどこも6,300円とします。こうなると代理店は自らの利益率を狭めるか、別のサービスとセット販売を行うなどしてユーザーにお見積もりするのですが、手段としてはもう一つあります。メーカーからお見積りをもらうのではなく、更に1社(商社/問屋)を通す方法です。
まるで、ねずみ講のようになってきましたね。
代理店の上に問屋・商社が登場することにより、代理店側もメーカーから卸される価格よりも問屋経由の方が安く仕入れる事ができる場合があります。(メーカー側が問屋と取引があればの話ですが)
今回追加した問屋の仕切り価格は原価の6かけ5,300円となり、代理店仕切りから15%の値引きとなっています。問屋は代理店に卸すという条件で定価から、47%の割引で仕入れられる事ができますが、条件は厳しく全国規模だったり毎月決まった金額の受注が必要な場合もあります。(代理店側も取引するために加盟料や預け金を払うなど)
このように代理店は問屋を通して商品を仕入れる事ができるので、考慮した流通機構を作っておくべきです。
ちなみに余談ですが、最近 卸売業者の直販店が増えていませんか?
問屋が代理店を飛ばして直接ユーザーへ販売した場合利益率は大きくなります。(ルール違反だけど)これがまかり通るのは、市場や産地直販、社内で仕入れから販売まで行っているフランチャイズなどが該当します。例えば農協を通さず農家と直接契約して、年間これだけの野菜を購入する代わりに問屋価格で仕入れさせてくれ → クライアントに直販のように自社内で流通が完了しているケースですね。今後こういう流通機構が流行っていくとセールスポイントが無い商品はどんどん買い叩かれてしまうのだろうなーっと懸念しています。('A')
まとめ
以上、定価付から考えられる価格付の重要さが理解できたでしょうか。
定価 > ユーザー価格 > 代理店 > サブ問屋 > 問屋 花形商品などはここまでの流通を考慮して価格設定を行っておくと、万が一原価が上がってしまった場合や、大手企業の購買からよくある、「御社とは口座がないので、うちの出入り業者を通してください」っというパターンになっても大丈夫ですね。また販売において、二重価格表示等のルールもありますので注意しておくとよいですね。 二重価格表示とは? 知っておくべき景品表示法 | Web担当者Forum こういうことがあるので、定価証明証などがあるのでしょうね。
ぜひとも、価格設定を適当にしている方は、見直してみてはいかがでしょうか。('A') おしまい。